高尾直樹

 

 タカシは今日、学校の帰りに変なものを拾った。

 学校の帰りと言っても、ちゃんとそれなりの道を通らないと、こんな宝物は手に入らない。誰もが知っているタカシの家までの道順を10回往復したって、見つかるのはせいぜいコーラの空き瓶か、運が良くて10円玉ぐらいのもんだからだ。

 それなりの道順ていうのはつまりこうだ。

 学校の東門の横の土手から竹やぶを抜けて、秘密の小道を通って、タカシの基地がある例の大きな桜の木へ行く途中の、ミヤマクワガタの木の所まで来たところで、急にオシッコがしたくなること。この「オシッコをしたくなる」ってのが大事なとこ。たまたまあの木の奥でオシッコをしたお陰で、こいつを見つけたんだから

 タカシは、近くの小枝を大きなピンセットの代わりにしてそれを持ち上げると、テレビで見た「なんとか刑事」みたいに、ジャンパーの左のポケットからビニール袋を引っぱり出してその中に押し込んだ。

 「かんしきにまわそう」

 まるで誰か他の人に話すようにそう言うと、タカシはその怪しい「物」をポケットにしまってから、基地がある桜の木まで走って行った。その太い幹には、五寸クギの階段が何本も打ち込んであって、それをずっと登った3本目の枝のところにタカシの「かんしき」がある。そこは、下から見てもわからないように、葉っぱがたくさん付いた枝でカモフラージュされていた。タカシは4本目の枝の出っ張りにランドセルを掛けると、わきに刺してあった30センチ物差しを抜き取って、最近手に入れた新しいマットの上にあぐらをかいた。新しいと言っても、この間の大型ゴミの日にこっそり持って来た古いソファのマットだから、ずいぶんとほこりくさかったけれど、それまでの段ボールよりは百倍ましだった。タカシはポケットから例の「物」を取り出すと、丁寧にビニール袋から出して、さっそく「かんしき」を始めた。

 「色は白っぽい黄色っぽい白」

 「高さ12.5センチ、直径6.7センチの円すい形」

 「横には、えっと2,4,6,8,82本のすじがついている」

 「底んとこには、えっと細くて数えられないけど、木の年輪みたいに輪っかがいっぱいついている」

 「においはない」

 「味は汚そうだからやめとこ」

 「鉄でもないし、プラスチックでもない」

 見た目にわかるのはそんなとこだったけれど、ここからがタカシ刑事の腕のみせどころ。

 「お母さんが料理していたタケノコに似てるけど、それにしちゃかたすぎるし」

 「こんな動物の角は見たことないし」

 そこまで考えて、タカシの頭にいやな考えが浮かんでしまった。

 

 (オニの角)

 

 「バッカみたい。オニなんてサンタクロースとおんなじで、ほんとにいっこないじゃん」

 なんて強がりを言ってももうおそい。夏休みの宿題で読んだ赤鬼の話が、タカシの頭の中で、怖い映画のように画面になって浮かんで来る。嘘つきでドロボーの少年を食ってしまう、あの赤鬼の話

 タカシは給食の時間を思い出した。 

 「アゲパンの油は体に悪いって、お母さんが言ってたよ」

 いいや、タカシはただアゲパンが嫌いだったから嘘をついたのだ。

 そうだタカシ、今すわっているマットはどうした?

 「こ、これは、捨ててあったから」

 いいや、ドロボーしたんだ。

 誰かに見られているような気がして、思わず辺りを見回してしまう。恐ろしさと焦るような気持ちに、さっきしたばかりなのにまたオシッコがしたくなってしまう。自分の庭のようによく知っているはずのこの林が、人っ子一人いない、見たこともない深い森に見えてくる

 タカシはいきなり立ち上がると、大急ぎでランドセルをしょって、まるで忍者のように基地から滑り降りた。ミヤマクワガタの木まで「角」を返しに行こうとも思ったが、もしそこに

 夕日を背にして立っているタカシの陰が、ミヤマクワガタの木の方へ伸びている。ランドセルの両脇に刺してあるリコーダーと物差しのせいで、自分の陰が大きな赤鬼の姿に見えた途端、タカシはその場に「角」を置いて、「ごめんなさい!」と叫んだかと思うと、一目散に反対の方向へ走りだした。夕日に吸い込まれて行くタカシの背中で、ランドセルがカタカタとなっている。

 まるで赤鬼が笑っているように

 

1993年2月21日